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製品進化とマネジメント風景 第13話 バイオプラスチックの進化と環境マネジメント

私自身の情報感度が上がったせいか、それとも雑誌等での出現頻度が増えたせいか分かりませんが、2019年になってから、やたらとESGとかSDGsという言葉が目に入ってくるようになりました。その中身は色々とありますが、産業用製品の視点では、二酸化炭素の大気中への排出減と廃棄物の低減の2つを考えればよいでしょう。

これまでの環境対策は、基本、省エネであり、二酸化炭素は増えてしまうけれど、その量を減らす、増加のペースを減らすという方向性でした。しかし、ついにマイクロソフトが2030年までにカーボンネガティブを実現することを宣言しました。企業イメージ、企業ブランド維持のために、実現リスクのある公約を掲げたと認識しています。カーボンネガティブを宣言する会社が増えるかどうか、世界中の会社が注目しているのではないでしょうか。

石油、石炭などの炭化水素燃料を燃やすのを減らそうという動きは既にグローバルに広がりつつあると思いますが、その副産物としてのプラスチックについても色々と動きがあります。

1つは海洋プラごみ問題です。海に流出しているプラごみの量は、情報ソースによって数字が異なりますが、年間800万トンとも2000万トンとも言われています。ただ、数字だけ聞いても、イメージが湧かない場合が多いと思います。このような時、海亀の鼻にプラスチック製ストローが刺さった動画が数年前にインターネット上にアップされ、多くの人に衝撃を与えるとともに、海洋プラごみ問題の認知度が一気に高まりました。画像は人間の脳に直接的に働きかけるので、その威力は非常に大きいということでしょう。

海洋プラごみは、流出されてどうなるのかと言うと、紫外線の影響などによって分解され、マイクロプラスチックになります。これとは別に、ボディーケア製品にスクラブとして使用されたマイクロビーズも下水から海に出ていきます。小さくなると、海洋中の有害物質(例えばPCB、ポリ塩化ビフェニール)を吸着しやすいという報告もあり、魚がそれらの小さなプラスチックを食べていることも分かり、最終的に人間の健康にも影響があるのではないかという議論がされています。ミリサイズであれば問題ないという意見がある一方で、仮にナノレベルまで細かくなってしまうと計測そのものが出来ないし、魚を通して人間にも影響があるのではないかという意見も出ています。温暖化の議論と同様、現時点では、科学的に決着が付いていません。海洋プラごみに限らず、プラスチックそのものの扱いについて、世界で動きが起こりつつあります。

プラスチックの問題の検討に入る前に、日本のプラごみの状況を振り返ってみます。1950年にはゴミの量は年間で約2万トンでしたが、1960年には約55万トンと10年間で30倍になりました。1970年には513万トンと10年間で約10倍になりました。現在は約1000万トンなので約50年間で2倍ですから増加のスピードは落ちています。一方で、日本を追いかけて経済成長している国々では、今でもプラスチック生産量が急増しています。世界で見ると年間の生産量は約3億トンなので、その3%程度です。

日本は、1990年代後半から、3つのR、即ち、リデュース・リユース・リサイクルの活動を進め、プラスチックごみに関しては、収集を含めて世界で一番しっかり管理している国といわれています。86%は改修されてリサイクルされており、残りの14%もほぼ回収されて単純焼却あるいは埋め立てに使われており、海へ流出しているのは数万トンレベルと言われています。しかし、1つ問題があります。日本のリサイクルの定義と欧州のリサイクルの定義が異なっているのです。

日本では、回収した86%について、マテリアルリサイクル(あるいはメカニカルリサイクル)、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルしています。年間生産量の約1000万トンのうち、マテリアルリサイクルは23%超ですが、このうちの60%は海外に輸出しています。かつては中国に大量に輸出していましたが、一部で人の健康と環境に対して重大な危害がもたらされている実態を踏まえ、2017年に輸入を中止しました。行き場を失ったプラごみは、東南アジアの国々に輸出されるようになりましたが、今度は東南アジアの国々でも輸入制限が広がり始めました。つまり、日本はプラごみを輸出できなくなりつつある、国内で処理しないといけなくなりつつあるということです。

ケミカルリサイクルは4%強であり、これに対してサーマルリサイクルが約60%と圧倒的に多く、プラスチックを燃やしてエネルギーを回収しています。欧州は、このサーマルリサイクルをリサイクルと認めず、単なるエネルギー回収と定義しています。このため、日本は世界で最もプラごみの管理が行き届いているにもかかわらず、リサイクルが進んでいない国という見方もされています。

欧州はリサイクルを進めるとともに、使い捨てプラスチックの使用を禁止する方向に進んでいます。使い捨てプラスチックの代表は、食品包装用フィルムやストローです。例えば、食品包装フィルムは、ポリエチレン層が水蒸気バリアとなり、ナイロン層が酸素バリアとなり、食品の劣化を防ぎます。これは食品ロスを減らすという意味で非常に大きな社会貢献をしています。しかし、欧州は、これらを燃やして処理するのは二酸化炭素を排出するので拙いと考え、溶かしてペレット化して再生する技術を開発しています。ペットボトルについても、米国のコカ・コーラなどは独自リサイクル技術をもつ会社と連携して「廃棄物ゼロ社会」のビジョンを掲げ始めました。

上記の状況の下、注目を浴びているのがバイオプラスチックです。バイオプラスチックという言葉を聞いた時、私自身はなにか魔法の杖のような響きを感じてしまいましたが、調べてみると多くの誤解がありました。まず、バイオプラスチックは、大きく、バイオマスプラスチックと生分解プラスチックの2つにカテゴリー分けされます。

生分解プラスチックは、土壌に埋めておくと微生物が分解してくれるものです。ただ、これには、バイオマス由来と石油由来の2タイプがあります。前者は、二酸化炭素問題とゴミ問題の両方を解決する手段となりますが、後者はごみ問題の解決にはなりますが二酸化炭素問題の解決にはなりません。また、土壌に埋めると分解されますが、海では分解されにくいものが多いので、海洋プラごみの即効対策にはなりません。実際、2019年時点において海洋生分解性を持つ材料は世界的にも数種類しかありません。さらに生分解プラスチックは強度、耐久性の面で劣るものが多く、用途としては使い捨て用製品の代替が中心になるものと思われます。ただ、この中には、産業用分野での活用が期待されているIoTデバイスも含まれます。

バイオマスプラスチックは、植物由来なのでカーボンニュートラルといえます。二酸化炭素の排出を抑えると言う意味で、大きな価値があります。一方、植物由来ではありますが、生分解性がないものも多々あるので、プラごみ問題を解決することにはなりません。生分解しないものはメカニカルリサイクルあるいはケミカルリサイクルするか、熱回収していく必要があります。

回収が第一であり、この面では日本は先進国です。真面目な国民性を超えたノウハウがあるように思います。世界的に見ても価値のあるノウハウだと思います。また、同じ熱回収でも、この場合はカーボンニュートラルなので欧州からの批判を免れるでしょう。使えなくなったバイオマスプラスチックについて、最後はエネルギー回収して使い切るという考えは、今後の時代でも通用すると思います。

バイオマスプラスチックの一例として、ここではポリ乳酸ベースの熱可塑性プラスチックを挙げます。この材料はコストが下がってきたため普及し始めています。射出成型性の悪さが指摘されていましたが、材料と射出成型機の両面で改良が進み、実用化されはじめています。

ただ、1つ気になることがあります。それは、ポリ乳酸はでんぷん由来の素材です。短期的にはともかく、中長期的には人間の食物と競合する可能性があります。この方向に行くならば、食物と競合しない植物を使う必要があります。それも、食物用の耕地を使って栽培するのでは意味がありません。食物系穀物を育成できない砂漠や荒地で育つ植物であることが必要条件です。そのような植物の候補として、イネ科のエリアンサスやソルガムが注目されています。これらは稲の2-4倍のバイオマス生産量を誇ります。仮に砂漠化の抑制とセットで実現できるならば大きな価値がありそうです。

人間の食物と競合しないという意味で、持続可能性のある原料の候補としては、木質系、セルロース系もあります。木質バイオマスは大きく3つの成分に分けられます。セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンです。

セルロースからナノファイバーを採取できます。セルロースナノファイバーの弾性率は高く、アルミニウムやガラス繊維よりも上でチタン並みです。コストは、まだ、1キロ当たり1万円程と高いですが、将来の目標は300~400円であり、一部の会社は量産を始めました。コストが下がれば、バイオマスプラスチックをマトリクスとして複合材化により、カーボンニュートラルな各種製品の材料として使えるでしょう。強度、剛性に関して炭素繊維複合材には敵いませんが、環境面では勝ります。セルロース繊維の耐熱性は約200℃と低いため、100℃以下の温度環境で使用する製品にしか使えませんが、自動車部品を始めとして代替用途はたくさんあるでしょう。

木質バイオから抽出された他の2成分ですが、ヘミセルロースはバイオエタノールの原料になりますし、リグニンも重油代替燃料になりえます。木は成長するのに一定の時間がかかりますが、その範囲内で使用する限り、持続可能性のある原料となります。

プラスチックの歴史はせいぜい70年程度ですが、この間、人間はこの材料の便利さを享受してきており、今更無しに済ませることはできないでしょう。よって、持続性のある代替材づくりに向かうのが自然です。石油由来のプラスチック素材あるいはプラスチック部品を製造している貴社は、環境志向が強まる時代において、技術、製造、サプライチェーンおよびリサイクルを含め、どのように対応していきますか?

参考文献

  1. 海洋プラごみ問題解決への道、重化学工業通信社、2019年
  2. スーパーバイオマス、福田裕穂・稲田のりこ編、2016年
  3. ものづくりの“循環革命”、日経ものづくり、2020年1月号