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製品進化とマネジメント風景 第73話 太陽光発電の進化と安全マネジメント

太陽光発電による発電コストは下がり続けています。20年前にこの分野の専門家が集まって将来のコスト予想をしたという話がありますが、誰1人として、今のレベルまで低コストが進むと予想していませんでした。

発電コストが下がった影響が大きいと思われますが、現在、最も勢いのある成長分野の1つとなりました。勢いがあるといっても、どれくらいなのかピンと来ないでしょうから具体的な数字を挙げながら説明します。

まず、再生可能エネルギーの世界的ネットワークであるRen21が発行しているGlobal Status Reportによれば、2019年から2020年にかけて、太陽光発電の年間発電量がついに風力発電を抜きました。

風力発電は年率15%弱の成長をしている立派な成長産業です。しかし、太陽光発電はその上を行く20%強の成長率を続けています。これはすごいことですよね。

コロナ禍はパネル生産や工事の日程に影響を及ぼしたでしょうから、2021年、2022年は少し成長力が落ちるかもしれません。仮に一時的に停滞したとしても、おそらく2023年には、再生可能エネルギーのカテゴリーでずっとトップを維持してきた水力発電を抜く可能性があります。それは歴史的瞬間だと考えられますので、興味深く見守っています。

日本では、昨年くらいから海上風力発電を増設する動きがようやく盛り上がってきましたが、欧州などと比べると非常に低調です。これに対して、太陽光発電設備の増強は世界的にみても上位にいて頑張っています。では、日本の全消費電力に対してどれくらい貢献しているのでしょうか? 

経済産業省発表の数値を見ると、2020年における日本の1次エネルギー生産量は1.8x10^7[TJ]あるいは50000億[kWh]です。この3分の1が電力変換用に消費され、3.3x10^6[TJ]あるいは9000億[kWh]の電力が生み出されています。電力変換効率は50%弱であり、日本では大半が火力発電であることを考えると妥当な数値です。

太陽光による発電量は、全発電量の約9%に過ぎません。増えつつありますが、まだまだマイナーな存在だということです。

2020年における日本の太陽光発電容量は71GWだったのですが、これを設備利用率という指標でみると、その数字は約13%です。別の報告で12%という数字もあるので、だいたいこの辺にあることは確かです。

設備利用率というのは、発電設備の実際の発電量が仮にフル稼働していた際の発電量の何パーセントほどであるのかを示す数値です。この数値が高ければ高いほど、その設備を有効利用できているということになります。太陽光発電の12-13%という利用率は設備としてかなり低い数字ですよね。

単純に考えると、1日の半分が夜なので、最大でも設備稼働率は50%となります。晴の日が多ければ25%くらいの数字になるのでしょうが、曇りが多い場所だと、さらにこの半分になってしまうということでしょう。

ちなみに比較対象として風力発電の設備利用率をみると、風力は昼だけなく夜も発電するので20-30%の数字となり、太陽光の倍レベルとなります。

さて、最近、日本の太陽光発電の売価が1kWhあたり10円を切ったというニュースが出ていました。実は、20年前に専門家達が予測した時は、10円/kWhを切るのは2030年以降になるという結論だったそうです。

日本における10円/kWhという数字を聞いて個人的には感心しましたが、世界の最安値は2円/kWhと言われています。なぜ、これほどの差が付くのでしょうか? 不思議ですよね。そこで、差が付く要因を検討してみました。

まず、日射時間です。年間日射時間は東京で約1800時間です。日射時間の定義では、天気が悪くて一定の光量に達しない場合は日射時間としてカウントされません。当然、晴れが多い場所が有利です。世界には、年間日射時間が東京の2.2倍である4000時間を越える所もあります。

当然ですが、日射時間は発電コストに大きな影響を及ぼします。日本と同じ緯度であっても、日射時間が2.2倍ならば2.2倍の発電量となるので、発電コストは半分になります。日本が10円ならば4.5円になるわけです。

低緯度の赤道直下では太陽光そのものが強いので、その分はプラスに働きます。単純計算すると日本よりも20%くらい多くなるでしょう。一方、半導体である太陽電池は暑い場所が苦手であり、変換効率が10%くらい下がります。

よって、日本(東京)と比べた時、発電効率の向上は意外と少なく10%程度ということになります。そうすると、4.5円/kWhのコストは4円までしか下がりません。2円にはまだまだ遠いですね。

仮に国が設備導入を進め、その後に民間会社に安く払い下げるという、日本が明治時代にした方法を使えば実現できるかもしれません。実際、現在2円/kWhを達成している国の中には、その方法を使っている可能性があります。しかし、今の日本では使用できない方法です。別の手段を考える必要があります。

別の手段として2つのアプローチが考えられます。それは性能向上と寿命向上です。まず、性能向上からみていきましょう。

多くの製品では、性能向上よりも低コスト化が重視される場合が多いですが、太陽光発電の歴史は、その逆だったことを示しています。そのため、製造コスト低減に取り組んだ企業は酬われませんでした。高コスト、高効率の単結晶シリコン太陽電池が市場の95%を占めているという事実がこれを物語っています。

単結晶シリコンの理論上の発電効率限界は約29%と言われています。これに対してパネル実製品では24-25%、小さなサイズでは26%まで到達したという報告が出ています。これらの数字をみると、そろそろ限界に達しつつあることが分かります。

発電効率を高めるアイデアは、単結晶シリコンに、特性の異なる別材料の太陽電池を組み合わせるアプローチが最も有力です。例えばシリコンは、太陽光の中の短い波長部分で発電しません。だから限界値が29%程度と低いのです。研究だけで言えば、異なる3種類あるいは4種類の太陽電池を組み合わせ、太陽光が含む波長の大部分を使って発電することで40%以上の効率も記録されています。

とは言え、いくらなんでも4種類も組み合わせるとなると製造コストが高くなりすぎて事業的に厳しそうです。仮に2種類を組み合わせてコストは15%増に抑え、一方で発電効率を35%まで高められれば、kWhあたり4円の発電コストは3.3円まで下がります。2円に近づいてきました。

ここからは太陽光発電の寿命あるいは耐久性向上による発電コスト低減を考えます。太陽光発電の寿命は、以前は20年と言われてきましたが、最近は30年を基準にする動きが多いようです。

これは、技術的に30年の寿命を達成できるようになったというよりも、20年では他の発電ソリューションに勝てないという競争心理が影響しているようです。

太陽光発電のこれまでの実績から、新製品は時間とともに毎年0.5%が壊れると言われています。このペースならば、20年後ならば、初期の90%の発電効率を維持できます。30年後でも初期の86%であり大差ありません。

大雑把で恐縮ですが、20年の寿命を33年まで伸ばすことが出来れば、前述の1kWhあたり3.3円の発電コストは2円になります。研究段階の話ですがこの条件をクリアーした試作品が出てきています。これは33年間試験したのではなく、加速試験で33年分を数年で実施して合格したという意味です。

実運用で実証したものはありませんが、手が届かない話ではないでしょう。もちろん技術的な壁はあります。20年を越えると、水が太陽電池内部に入り込む場合が増え、その結果、内部に酢酸が発生し、性能の大幅低下を引き起こすからです。

この故障モードは、封止材が起因していると言われますが、そこに問題が特定できているならば、封止材の材質を変える、あるいは改良することにより改善を見込むことが可能です。別の要因でも、故障モードが特定できていれば、何らか対策は考えつくものです。だから、皮算用として30年の寿命設定は現実味があると考えています。

性能の経年低下は経済性を下げる要因となりますが、許容できない話ではありません。これに対して、太陽光発電が世の中全般に普及するために、許容できないことがそれは致命的な火災、風災の発生です。発電システムの一部で火災が発生しても、一部の損傷だけで済めば問題は小さいですが、火災が全体に広がると致命的な問題に発展します。

特に集合住宅用の太陽光発電システムにおいて火災が発生した場合、その火災で人命が失われることになるとその影響は計り知れません。単に物損であれば民事事件として損害賠償だけで済みますが、人命が関われば刑事事件に発展します。

ご存じのように、刑事事件は民事事件とは異なり、罰則の対象は法人ではなく、法人に所属する個人です。あなた個人の責任になるかもしれないということです。

火災以外にも、台風等による風損で太陽光パネルが壊れて宙に舞い、人に当たって人命が失われるとやはり同じ扱いとなります。

太陽光発電システムといっても、製品システムを纏めて売っているメーカーだけでなく、そこにモジュール、部品、部材、素材を供給しているサプライヤーがいます。異常を探知するモジュールが組み込まれていれば、センサーやモニタリング用のソフトウェアだけを作ったサプライヤーもいるでしょう。

人身事故が起こった場合、最初は、どのモジュール、どの部品・ソフトウェアが原因で事故が発生したのかという所から話が始まります。調査の結果、事故の発生原因が、特定の部分であると絞られると、次は、その部分に関わった法人の誰に刑事責任があるのかという話になります。

この時、社内における責任分担が曖昧だと、刑事責任は、品質保証部門の長や事業担当の経営者に向かいます。

航空機産業では、もともと製品が人命に直結するため、責任分担を非常に明確化させています。大雑把に言えば、責任は経営者にあるのか、品質保証にあるのか、技術にあるのかを分離します。

経営者の責任は、社内におけるチェックの仕組みやチェックできる組織づくり、人材づくりをしていたかが問われるでしょう。

品質保証は、決められたことがその通りにキチンと実施されたことを確認していたかがチェックされます。そのチェックが不足していたということで、刑事責任を取ることになった品質部長が実在します。

技術は、設計や製造において、適切な方法で実施され、しかも、適切な審査組織による審査を受けて合格したかが問われます。もし、技術的な問題で人命が失われ、それも十分な配慮があれば防げたものならば、その審査を行った審査委員長が刑事責任を負うことになります。

産業用の太陽光発電については、通常、運用者が安全をモニターしており、さらに、メーカーによる定期点検が必ずあります。よって、余程の不注意がない限り、人命が失われることはなく、経済的な問題に限定され、民事問題として処理されるでしょう。

これに対して個人住宅用設備ではメンテを嫌がるでしょうから、産業用と比べると格段にリスクが上がります。現状は、まだ、個人住宅用設備の管理責任が個人なのかメーカー側か曖昧ですが、いずれ消費者保護が強化され、大半の責任がメーカー側に移っていくでしょう。その時、会社にとってのリスクが顕在化することになります。

社内における普通の人は、自分の責任で人命が失われるかもしれないと思えば、物事に真剣に取り組み、最新の注意を払ってベストを尽くでしょう。それは、事故発生確率を大幅に下げることになり、企業にもプラスに働くでしょう。

これに対して、社内に、自分の手抜きが人命に影響することを十分に認識する環境になく、漫然と業務に取り組んでいる職場では、重大な事故が発生する確率は大幅に上がります。

安全性重視となると、常識的には開発期間が延び、コストが増え、利益率が下がると思われがちです。しかし、それが全く逆のことが起きます。興味のある方は、是非、当社にコンタクトください。