〒186-0002
東京都国立市東2-21-3

TEL : 042-843-0268

製品進化とマネジメント風景 第119話 WiFi通信技術の進化とその利用マネジメント

通信が有線から無線に変わったことの影響は絶大であり、我々は日々、それを享受しています。無線通信の一番のメリットが、場所を自由に選択できることであることは言うまでもありません。 今後も、場所に依らない無線通信を利用した新しいサービスが出てくると期待しています。

携帯電話の後継としてのスマートフォンが出現して以来、誰もがこの便利な道具を所有するようになりました。便利さに惹かれ、スマートフォンの利用が急激に成長したため、セルラー通信設備の増強が追い付かない状況となり、これを補完する無線通信が必要となりました。時期としては2010年代の初め、2012年頃のことです。 

その時に待ち構えていたのがWiFiであり、セルラー通信のオフロード対策として急速に普及しました。WiFiはその後も、スマホの世代更新と歩調を合わせながら世代を更新し、ついにWiFi7の時代になりました。 

急成長するビジネスの多くは、最初から急成長したのではなく、しばらくの期間、低成長の時代が続くものの、時代の先を見越したソリューションであるが故に、ある時から急に成長を始めるのが1つのパターンです。 

無線通信、特にWiFiもこの1つのサンプルです。最初の規格は1997年に発行されました。規格名称はIEEE802.11です。周波数帯は2.4GHzで最大通信速度は2Mbpsというものでした。実際に市場に出てきたのは1999年であり、最初の規格を引き継いだものが802.11bです。周波数帯は2.4GHzを踏襲し、最大通信速度は11Mbpsでした。 

興味深いのは、互換性をあまり考えずに先端技術を盛り込んだ802.11aもほぼ同時期に規格化されたことです。規格化された当時は、変調方式や多重化方式が異なり、この2つは別物と言って良い状態にありました。 

しかし、後から見ると、2つの異物を包含した規格にしたことが、ローカルエリアでの通信速度を高めることにつながり、引いてはWiFiの普及に繋がったと考えられます。なぜなら、2.4GHzという周波数帯は免許不要で自由に使える周波数帯であり、WiFi以外にも電子レンジ、アマチュア無線、Bluetooth、RFIDなど、様々な機器の電波があって干渉しやすく、生き残るには多様な通信方式の選択肢を持っておく必要があったからです。 

WiFiは、現在、ローカル無線通信のデファクト標準と言えます。これ以外にも、Bluetooth、Zigbee、Wi-SUNなどの短距離無線通信がありますが、これらはWiFiとは異なる規格に基づいており、両者は補完し合う関係にあります。IoTの需要増に応じて注目が集まりつつあります。この話題は後ほど議論するとして、まずは、WiFi通信の進化を振り返ってみたいと思います。 

今日ではWiFi6とかWiFi7という世代番号を付けた言い方をしますが、それは普及が進んだからで、以前は規格名称で呼ばれていました。今の呼び方は完全に後付けであり、2009年の802.11nをWiFi4、802.11acをWiFi5、802.11axをWiFi6と呼ぶことになりました。最新のWiFi7も厳密には802.11beです。 

2009年のWiFi4はある意味で画期的な規格と言えるでしょう。なぜなら、ここで2.4GHzと5GHzという2つの周波数帯を一緒に使えるようになったからです。当初はこれら2つの周波数で使う変調方式や多重化方式は異なっていましたが、WiFi4で統合されました。その源流は異端として規格化された802.11aです。異端がその後の標準になったということを意味します。 

技術の分野では、最初は異端であっても、その後に標準になる例は枚挙にいとまがありません。一般に世の中では異端は嫌われ、排除される傾向にありますが、技術に関しては、歴史的にみてこの異端を包含する懐の深さが重要だと言えるでしょう。 

WiFi4とそれ以前を比較すると、WiFi4から通信速度が急増することに気付くでしょう。最大通信速度を比較すると、それ以前の54Mbpsが600Mbpsまで向上しました。約12倍という驚異的な性能向上です。これを実現できた理由は2つあります。その1つは周波数の帯域幅が従来の20MHzだけでなく、40MHzも使えるようになったことであり、もう1つはMIMOと呼ばれる送受信アンテナの多重化技術の採用です。 

WiFi4からWiFi6への進化の基本路線は、WiFi4の時点で定まったと言って良いでしょう。すなわち、2.4GHzと5GHzの2つの周波数帯を前提として、周波数の帯域幅を広げ、変調方式のビット数増やし、送受信アンテナの数を増やすという路線です。 

WiFi4とWiFi6を比較すると、周波数の帯域幅の最大値は40MHzから160MHzに4倍になっています。変調方式の向上により通信ビット数が6から10に増え、また、アンテナ数も2倍になっています。単純に計算すると、4×2×1.6=12.8倍となります。実際は付随的な速度アップもあり、16倍まで増強されて通信速度は約10Gbpsレベルに達しました。 

このレベルに達すると、通常の利用では不満は出ないと思います。ただし、スピードを競うゲーマーはもっと上を追求しているようです。また、リアルタイムでの制御が必要な限られた産業用途でも不足する場合があるでしょう。 

ここからは最新のWiFi7の話です。日本では2023年12月に使用が認められ、2024年から本格的な利用が開始されています。 

WiFi6から7への進化も、基本的に従来路線を踏襲していて驚くものはありません。一番大きなものは周波数帯の追加です。6GHzを使えるようになりました。それ以外の増強は、周波数の帯域が320MHzと倍増し、変調方式により通信ビット数が10から12に増え、アンテナ数が2倍になりました。理論上、2×1.2×2=4.8倍であり、最大通信速度は約50Gbpsまで上がると考えられています。 

すごい通信速度であり、多数の人が使う公共施設やたくさんのIoT機器が接続される工場での利用用途はあると考えますが、一般人や一般企業ではWiFi6で十分でしょう。実際、WiFiルーターのメーカの新製品を見てもWiFi7対応は少数派であり、多数派はWiFi6です。おそらく、オフィスや家庭のIoT化の進行による需要増を見守っているのではないかと思います。 

そのIoT化は日常生活にどんどん入り込んできています。オフィスおよび家庭においても、電力とガスの使用はIoTの一種であるスマートメータ化されました。水道はまだですが、これも時間の問題でしょう。

オフィスや家庭内に設置する空調機、テレビ、プリンタ、WebカメラもIoT機器の一種です。これらについてはセキュリティ上、若干の懸念があります。それは、機器の中には弱い暗号化しか使えないものがあるからです。

弱い暗号化方式が使われているのは主に古い機種ですが、テレビや空調機の耐久性は少なくとも10年程度はあり、運用中に暗号化が陳腐化してしまうことが頻繁に起こります。最新のWiFi暗号化方式はWPA3ですが、WiFi通信機能を持つ古いP社のテレビではWEPが使われていました。

P社の最新空調機のWiFi暗号化はWPA2と3に対応しています。これに対してC社の比較的新しいプリンタはWPA2とWPAにしか対応していませんでした。ルーター設定をWPA2以上にしていれば問題ないですが、弱い暗号方式を許容する設定になっていると危ないと言えるでしょう。

以前、WiFi通信の接続が切れる事態が多発した時がありました。当時はまだ、すべてのWiFi通信をモニターしていなかったのですが、色々と調査した結果、ネットワーク内にWEPという古い暗号方式で接続している機器があり、その脆弱性が原因だった可能性があるのではないかと考えました。

そこで対策として、その機器をWiFiに繋ぐことを止めました。それ以降、接続異常は激減したので、暗号方式の脆弱性が原因だったのかもしれません。ただ、太陽フレアが発生すると通信障害が起こり、類似の状況になるので、原因だったと断言はできません。ちなみに、今ではWiFiに接続されている機器をすべてモニターできるので、知らないアクセスがあればすぐに気付くことができます。

IoT機器については、上記のように建屋の電源を使用できる環境ならば問題ありませんが、道路、農場、牧場、森林、河川、海面など、必ずしも近くに電源が近くに無い場合には、電池を利用する場合もあり、省電力特性が重要になります。もちろん、近くに風力および太陽光発電機を設置すれば電池交換は不要になりますが、これはこれで初期コストが上がります。

省電力の無線通信では、WiFiよりもBluetooth、Zigbee、Wi-SUNなどが有利です。省電力化の無線通信をした時に気になるのも、やはり通信セキュリティへの影響です。Bluetoothは低電力通信の代表的な方法ですが、セキュリティの脆弱性が指摘されています。メーカからも、使用する時以外はOFFにすることが推奨されていますよね。 

また、IoT機器の通信機能はマイコンや1ボードコンピュータを使う場合が多いと思います。これらは安くて良いのですが演算能力が低いので、パソコンのような防御能力はありません。守られた社内環境の内部で使用するのは良いとしても、アウトドアに設置した時の防御力は大変弱いと言わざるを得ません。

一番困るのは、通信が乗っ取られて別のデータに置き換えられることです。スパイ映画で良く使われる例は、監視モニターの映像を別の録画データに切り替え、侵入を誤魔化すというものです。当然、実際の計測値を別の値に変えることも可能なわけです。 

WiFiは7まで来ました。最新の暗号化方式であるWPA3のセキュリティは高いと思いますが、依然として電力消費が大きいと言えます。WiFiがIoT時代においても成長を続けられるかどうかは電力消費に掛かっているのではないかと考えています。WiFi8に求められるのは、性能向上よりも、セキュリティと大幅な省電力化の両立ではないでしょうか?