製品進化とマネジメント風景 第127話 スマートメータの進化と事業マネジメント
IoTの進展により、なんでも計測して通信できる時代になりました。その主役はスマートメータです。
スマートメータの前身はアナログ計量計です。使用した積算値が指示され、検針員が実地にこれを読み取り、積算値の差分を月間使用量として課金する方式が行われていました。
このアナログ計量計がデジタル計量計となり、そこに通信モジュールを取り付けられ、スマートメータに進化しました。スマートメータによる自動検針は、最初、電力で普及し、日本では90%近い普及率になっています。最近ではガスもスマートメータ化が進み、自動検針に置き換わりつつありますが、おそらくまだ数%レベルでしょう。水道については、未だに昔ながらの方法が取られています。
自動検針のメリットで最初に思いつくのは、人による検針作業がなくなることです。これはインフラ供給企業にとってはコスト削減になり、また、転記ミスや計算ミスなどの品質も向上するというメリットがあります。
では、ユーザーにはどのようなメリットがあるのでしょうか? 個人も企業も、使用量や料金をリアルタイムで見ることができるので、省エネマインドが上がる可能性はあります。企業は喜ぶかもしれませんが、個人では疑問です。個人は、やはりスマートメータ導入によって、使用料金が下がることを期待します。使用料金が上がるならば、普及は簡単には進まないでしょう。
ただし、自動検針が無くなることによるメリットとして、物理的なセキュリティが向上します。現状、検針員はメータを視るために無断で私有地や会社敷地内に入ってきます。それをしないと検針できないのでやむを得ないのですが、以前から、これはセキュリティ的に問題があると思っていました。なぜなら、検針員の服装をすれば、誰にも疑われずに、私有地に堂々と入ることができるからです。自動検針化が進めば、この問題は解消されるので、この点で受け入れる人や企業も出てくるでしょう。
電力に関して言えば、コスト削減よりもずっと重要なメリットがあります。近年、太陽光発電や風力発電といった発電量が不安定な再生可能電力が増え、さらに、電力の流れが、電力会社からユーザーへの方向だけでなく、ユーザーから電力会社への方向も加わり、双方向となりました。このような状況で安定な電力供給を行うには、リアルタイム(30分毎)に電力の流れを把握し、制御する必要があるからです。さらに、局所的に停電が発生した時、それが全体に広がる前に瞬時に局所を切り離すことができるようになりました。電力のスマートメータ導入は、社会的にメリットの大きい話と言えるでしょう。
一方で、電力スマートメータにはデメリットもあります。それは、リアルタイムの使用状況のデータが通信時に盗み見される懸念があるからです。これは、生活パターンが可視化されるということを意味し、不在時に盗難に入られるリスクを高めます。人手不足が常態化しつつある昨今では、デメリットよりもメリットの方が大きいと判断され、リスクはあってもスマートメータの普及を抑えることはできないでしょう。
さて、ここで、質問を1つ入れます。日本の電力、ガス、水道において、世界的にみて料金が高いもの、安いものはどれでしょうか? 答えは、ガスが世界で最も高く、次が電力です。どちらにしても、高い方から数えて1~5番に入ります。これに対して水道は逆です。世界で安い方から数えて3番目なのです。日本という国が、いかに水に恵まれた国かが分かります。
次の質問ですが、電力、ガス、水道の3つについて、災害時に必要となる順番はどうなるでしょうか? 答えは明らかであり、1番は水道です。水がないと食事もとれないし、トイレも使えなくなるからです。良く知られた事ですが、ビルでも工場でも住居でも、トイレがない建物は常用できません。平時だろうが災害時だろうが、水道が最も重要なインフラということになるのです。
2番、3番は人によって答えが変わりそうです。小規模なものであっても太陽電池と蓄電池を持っている人は、電力よりもガスを優先するかもしれませんが、ドングリの背比べでしょう。
水道は、人間の生活上あるいは生存上、最も重要な事業でありながら、デジタル化、スマートメータ化が最も遅れた分野でもあります。水道事業に関わる従業者数は、40年前と比べて3~4割も減りました。少ない人数で、広がった水道網を維持しなければならず、デジタル化による生産性向上が必須の分野です。よって、今回のコラムでは、水道事業への適用を考えつつ、スマートメータの進化と事業マネジメントを議論したいと考えています。
ここからはスマートメータの話に進みます。進んでいるのは電力とガスであり、それぞれが独自のサービス網を構築しています。水道は、おそらく独自のサービス網を持たず、電力かガスのサービス網に相乗りすると予想します。なぜなら、水道料金の大幅な値上げは難しいでしょうし、独自のサービス網を構築しても投資回収できる見込みが薄いからです。
スマートメータの構造は、一般的に、計量部と通信部に分かれています。計量部にはセンサが入っており、電力、ガス、水の使用量を計測します。水道の場合には、水量に加えて水質が重要な計測項目です。
通信部における通信方式はいくつかに分かれます。まず、電力について、次にガスについてみていきますが、繋ぐルートはどちらにも共通する話なので、先にそれに振れます。インフラとユーザーを繋ぐルートは3つあり、Aルート、Bルート、Cルートと呼ばれています。
Aルートは電力会社とスマートメータを繋ぐルートであり、Bルートはスマートメータと家、ビル、工場に設置されたエネルギー管理システムの間を繋ぐルートです。Cルートは電力会社と第3者を繋ぐルートです。
Bルートは前述したように家、ビル、工場の3つに分類されています。それぞれ略語があり、HEMS(Home Energy Management System), BEMS(Building Energy Management System), FEMS(Factory Energy Magement System)と呼ばれています。以後、この略語を使います。
BEMSの普及率は2019年に約20%に達し、2030年には約50%に達するという予想があります。オフィスビルにおいてエネルギー消費の大きい代表格はエアコンであり、誰もいない部屋を冷暖房している場合もあるでしょうし、人のいる部屋であっても過剰な温度設定をしている場合があるでしょうから、一定の投資効果はありそうです。
FEMSの普及率は2020年に約10%であり、伸び悩んでいます。日本の工場では昔から省エネ活動が盛んなので、すでに乾いた雑巾を絞るレベルになっていて、FEMSを導入しても投資効果が小さいのでしょう。とは言え、工場に太陽光や風力による発電装置、発熱装置を設置している場合には、生成したエネルギーを最大限に有効活用するマネジメントにより、経費とCO2排出の両方を削減できます。よって、装置の導入費用が下がれば、急速に普及が進む可能性があります。
HEMSの普及率は2021年でも僅か2.5%です。個人レベルでは、脱炭素化には賛成でも、お金を出してまで自宅のエネルギー消費を可視化したいとは思わないということなのでしょう。逆に言えば、まだまだ無駄なエネルギー消費があると推定できるかもしれません。HEMSの普及率を上げるには、政策的な普及策が必要だと考えます。
ここからはスマートメータにおけるデータ通信の話に移りますが、話は普及率の高いAルートだけに絞ります。その普及率を見ると、電力はガスを圧倒しているのですが、ガスは独自の通信方式で進めています。その理由は、ガスは電力が来ていない所でも使われて、通信をする必要があると言われています。今でもそのような場所があるのですね。
まず、電力におけるデータ通信を見ていきましょう。3つの通信方式を許容しています。1:N、マルチホップおよびPLCの3つです。
1:Nは、ポイントtoマルチポイントの無線通信であり、要するに携帯電話と同じようにデータ通信をすると考えると分かり易いでしょう。山間部など、ユーザーが点在する地域に適しています。
マルチホップは、バケツリレーのように隣接する無線端末同士でデータの転送を繰り返すことで、本来無線が届かない範囲でも通信を可能にする、IoT通信と携帯電話と同じデータ通信を組み合わせた方式です。一般住宅エリアに向いています。
PLCはPower Line Communicationの略であり、電力線を使ってデータ通信を行う方法です。高層ビルや集合住宅が密集した地域で、電波が届きにくい地域に適した方法です。ただし、停電が発生したら通信はできなくなるという欠点があります。
他方のガスのデータ通信では、元々は無線ではなく有線のUバス規格が使われていました。最近では、無線バージョンのUバスエアに置換されつつあります。Uバスエアが準拠する規格は、物理層は世界標準のIEEE802.15.4g、MAC層が802.15.4eです。ガスは電気がない所でも通信できるよう、低電力の通信仕様を採用しているのです。
電力スマートメータは、電力がある場所に設置するので必ずしも低消費電力である必要はないのですが、次世代スマートメータの準拠規格はやはり802.15.4gを採用しています。電力とガスは表面上、異なる規格に見えますが、どちらも低消費電力の国際規格を採用しているので、規格の差は小さく、統合しようと思えばできそうです。だとすると、電力、ガス、水道は1つのデータ通信網に統合できそうです。
水道のスマートセンサを考えた場合、当然の事ながら計量部は水道特有になります。計量する項目として水流量と水質があります。水質の計測は多様であり、しかも計測する場所は限定されるので、ここではすべての供給場所で必要となる流量計に焦点を当てます。
流量計には様々な型があります。計測の精度が良く、管路内での圧力損失が小さく、比較的安価な型として超音波式と電磁式を代表例として考えます。
超音波式は、ドップラー効果を用いてセンサにより流速を計測し、管路面積を掛けて流量を計算します。電磁式では、ファラデーの電磁誘導則を用いており、流速に比例して誘導起電力が生じるので、これを計測して流速を求め、あとは管路面積を掛けて流量を計算します。なお、他の流量計として、コリオリ式、熱式、カルマン渦式、羽根車式、浮き子式、オリフィス式等があります。
水道は、人間が生きていく上で最も重要なインフラであり、非常時でも機能しないといけません。地震時はともかく、停電によって水道機能が停止するようなことは許されません。
それ故、水道用のスマートメータは、電力が来ていない所でも使えるものであることは必須の条件になります。この意味では、水道の運用環境はガスに似ており、ガスと水道のスマートメータを統合するという考えは自然だと思われます。
とは言え、先行者である電力がガス、水道を放っておかないでしょう。よって、今後、スマートメータの分野は、電気がガスと水道も統合しようという動きと、それを嫌ってガスと水道の連携、統合を進める動きの2つが並行して進んでいくのではないでしょうか?